「ジョージア」といえばコーヒー飲料やアメリカの州の名前をイメージする人が多いかもしれませんが、「ジョージア」という国があることをご存じでしょうか。
黒海とカスピ海のあいだに位置し、東ヨーロッパと西アジアの境界にあたるため、ビザンチンやアラブ、ペルシアなどさまざまな国の影響を受けてきました。
旧ソビエト連邦から1991年に独立した国で、長らく「グルジア」の名前で知られていましたが、国連加盟国の多くが「ジョージア」と呼んでいることから日本でも2015年から「ジョージア」に呼び名を変えています。
今回は、そんなジョージア北部の秘境、標高約2,300mにあり、「一年中人が定住する場所としてはヨーロッパ最高地点」とされるスワネティ地方について紹介したいと思います。
「ヨーロッパ最後の秘境」とも呼ばれるその場所では、昔ながらの伝統や文化、スワン語という独自の言語を守りながら生活する人々がいます。
私自身、ツアーで訪問して惚れこんでしまい、数週間後に自分の夏休みを利用して再訪したくらい、大好きな場所です。あまりにも気に入りすぎて、ロッジかどこかで働こうかと本気で考えたくらいです(笑)。後にも先にも、こんなふうに感じた場所はあまりありません。
この記事を読んで、行ってみたい!と思っていただいたり、実際に足を運んでくださる人がいたら嬉しいです。
ジョージアってどこ?
まずはジョージアの位置を確認してみましょう。
黒海(東)とカスピ海(西)に挟まれ、南にトルコとアルメニア、東にアゼルバイジャン、そして北側はロシアと接しています。
ジョージア北部を東西に連なるコーカサス山脈がロシアとの国境をなし、西の黒海から東のカスピ海まで連なります。
コーカサス山脈のロシア領内には、ヨーロッパ最高峰のエルブルース(5,642m)があり、その他にも5,000mにも達する高峰が連なっています。
今回、紹介するスワネティ地方は、そんなジョージア北部にあり、まさに迫力ある山岳展望が楽しめる場所としても人気のエリアです。
世界遺産スワネティ地方を有名にしている「復讐の家」とは
スワネティ地方は、ジョージア北部のコーカサス山脈のふところに拓けた山岳地帯です。
この地方を有名にしているのが、中世に建てられた「復讐の塔」と呼ばれる「塔の家」。町のあちこちに、ニョキニョキと塔が建ち並ぶ光景はたいへんユニークです。
しかし、桃源郷のような美しい光景とは裏腹に、この塔の家が造られた背景にはとても恐ろしい習慣がありました。この地方に住む勇敢なスワン族は、「血の掟」と呼ばれる氏族間の復讐制度があり、家族の仲間が殺されると、復讐のため相手を殺害するのです。そしてまた、その復讐で相手を殺害し…と、時にその戦いは、どちらか の一族が絶滅するまで続けられたほど血生臭いものでした。
その復讐から一族を守るために建てられたのが、この「塔の家」です。塔の家は5階建てから7階建てにまで及び、人だけでなく家畜も立て篭もることができ、数ヶ月間隠れ住むこともありました。
このように、「塔の家」の歴史的・文化的な観点と、類まれな景観が評価され、スワネティ地方はユネスコの世界遺産に登録されています。
この習慣は現在は禁止されましたが、20世紀初頭まで続けられていました。今となっては防衛用の塔としての役割は終わり、主として倉庫として転用されているようです。また、場所によっては崩壊して廃墟と化し、それが何ともいえぬ風情を生み出し観光客を楽しませています。
塔に接近してみると、薄く切り出した石を積上げて造られているのが分かります。壁は厚く厳重に造られていて、内部ははしごで行き来します。
1階から2階には家畜を、3階以上が住居となり、最上階には銃眼が設けられて見張り塔の役割を果たしていました。
今でこそ、最上階からは塔が林立する見事な景観を楽しめますが、それは同時に、当時いかに争いが多い世の中だったかを象徴しています。
スワネティ地方への行き方
スワネティ地方には、あちこちに小さな村が点在していますが、その中で観光のハイライトは、ウシュグリ村です。
ウシュグリ村へは、スワネティ地方の中心地メスティアから約3時間、くねくねの山道を4WDで進みます。
渓谷を見下ろしながら、どんどんと山を越えていきます。ガタガタの悪路あり、小川の渡渉あり、ハンドル操作を誤れば転落しそうな崖っぷちあり…のおっかなびっくりな道を進んでいきます。美しい緑の草原と、コーカサス山脈の迫力ある山容が間近に迫る見事な光景が広がりますが、残念ながら景色を楽しむ余裕はあまりありませんでした。
ウシュグリ村に近づくにつれて、ちらほらと塔の家が目に入るようになりました。中には、崩れて廃墟のようになってしまった塔もいくつもあります。修復している塔もあるようですが、お役目ごめんとなった現在では、朽ち果てるのを待つしかない塔もあるのでしょう。世界遺産に登録されているので、もう少し修復にも力を入れてほしいなと感じる部分もありました。
ウシュグリ村の生活:ガイドさんの話
さて、そうこうしていたら、ヨーロッパで一年中人々が生活している場所としては最高地点の標高2,300mに位置するウシュグリ村に到着しました。コーカサス山脈に四方を囲まれ、グルジア最高峰のシュハラ山(5,068m)が目前に迫る迫力ある展望が楽しめます。
私が訪問した2012年当時、村には、50戸300人ほどが住んでいるとのことでした。独自の文化や習慣、スワン語という言語を守りながらおだやかに生活しています。スワン語は母音が18もあり、書き言葉がないのでたいへん難しい言語だそうです。
村にはお医者さんや先生が2~3人いて、教育は子どもが先生のところに行ったり、先生が生徒のところに行ったりして行われているようです。外国語は、ロシア語から英語にシフトしていて、村で会った青年もとても綺麗な英語を話していました。
一度村を出た若者も、Uターンして観光業に従事する人が増えているんだとか。家を改築してゲストハウスにするのが成功の近道だと教えてくれました。
ここ数年で、ジョージアという国そのものの観光価値も高まっていて、ウシュグリ村にもどんどん観光客が押し寄せています。「ヨーロッパの秘境」が秘境ではなくなる日も近いのかな…なんだか悲しいな…などと考えてしまいます。
ウシュグリ村では、馬が重要な交通手段なので小学生くらいの小さな子供でも楽々と乗りこなしています。馬も牛も豚もところ構わず歩き回るのどかな光景が印象的でした。
あちこちに動物たちの「おとしもの」があるので、くれぐれも足元にはご注意を。といっても、かなりの確率で踏んでしまうので靴が汚れてしまうことは覚悟した方がよいでしょう(そのくらい、たくさん落ちているのです)。
ウシュグリ村へは日帰り?宿泊?
多くの観光客が、午前中にメスティアを出発して、日中数時間滞在して、またメスティアに戻っていきますが、日帰りはとてももったいないです。
私が添乗で行ったツアーは日帰りだったのですが、あまりに村の雰囲気に惚れこんでしまって、自分の夏休みにウシュグリ村に行ってゲストハウスに泊まったくらいです!
個人で行くなら村に2~3泊してのんびりと村に流れる時間を楽しむのがおすすめです。豪華なホテルはありませんが、ホスピタリティあふれるゲストハウスがいくつかあり、快適に滞在することができます。
食事は全て自家製で、採れたて作りたてのものばかり。焼きたてのパンに、絞りたてのミルク、それから加工したチーズやバタ ー、採れたてのトマトにきゅうり…!どれも素朴な味わいながら、とても美味しかったです。
ホスピタリティあふれるおもてなしに心温まり、家族のように受け入れてくれたゲストハウス。帰るときはとても別れがたくて、まるで「うるるん紀行」みたいになってしまいました。
あれからもう10年以上、みんな元気にしてるかな…思い出したらまた訪問したくなりました。
ウシュグリ村へのおすすめの時期は?
ウシュグリ村に行くなら、6月~8月の夏か、9月の秋の2択です。
10月以降は、積雪のためにメスティアからの道路が閉鎖されることもあるため、おすすめできません。ただでさえ悪路、雪が降ったり凍ったりした道を通るのは危険すぎます。
夏を選ぶのであれば、6月の初夏が特におすすめです。一面に可愛らしいお花が咲いて、草原をカラフルに彩ります。
最近、ジョージアは観光ブームなので、欧米人のバカンスにあたる7月~8月は観光客が急増するそうです。
せっかく人里離れたところに来たのに、観光客だらけ…というのもなんだか興ざめです。
静かなウシュグリ村を楽しみたければ、村に宿泊するか、秋に訪れるのが正解。
秋は草原が茶色くなるのでなんだか侘しい感じがしますが、空気が澄んで晴天率が上がるので、迫力ある山岳展望が期待できます。
「ヨーロッパ最後の秘境」ウシュグリ村へいざ!
日本ではまだ馴染みの薄いジョージア、その中でもアクセスの悪いエリアですが、ぜひとも訪れてほしいメスティア地方のウシュグリ村について紹介しました。
ジョージアは、食事もおいしく、ワインの産地でもあり、美人が多い国としても有名なので(!)、ぜひ次なる旅行先として検討してみてくださいね。