今回は野生のホッキョクグマに安全かつ高確率で出会える人気の場所、スピッツベルゲン島を紹介したいと思います。
スピッツベルゲン島はノルウェーの北西部、北緯74~81度に位置するスヴァールバル諸島最大の島で、九州ほどの大きさです。
諸島内で唯一の有人島でもあり、人が定住する場所としては世界最北の地とされています。
ホッキョクグマに出会うには、スピッツベルゲン島からクルーズ船に乗って観察します。
スピッツベルゲン島への行き方
スピッツベルゲン島への玄関口は、ロングヤービーエン。スピッツベルゲン島最大の町であり、スヴァルバール諸島の行政・産業の中心地となっています。北極圏の自然に関する研究機関や鉱山業が主な産業です。
ロングヤービーエンへは、ノルウェーの首都オスロから国内線で約3時間30分ほどです。
日本からオスロに向かうには
- スカンジナビア航空でコペンハーゲン乗り継ぎ
- フィンエアーでヘルシンキ乗り継ぎ
の2つの方法が一般的です。
ロングヤービーエンからクルーズ船に乗り、スピッツベルゲン島の旅がはじまります。
スピッツベルゲン島の魅力3選
スピッツベルゲン島の魅力は、何といってもケタ違いの大自然。クルーズ中の楽しみは大きく3つあります。
- ホッキョクグマとの遭遇
- 絶景のハイキング
- ゾディアックボートでのクルーズ
ひとつずつ紹介していきます。
ホッキョクグマとの遭遇
ホッキョクグマはエサを求めて氷の上や海上を移動しています。また、ペンギンのようにコロニーをつくる生き物ではないため、見つけるのはそう簡単ではありません。
そのため、クルーズ中は何をしていてもホッキョクグマが優先。スタッフがホッキョクグマを発見すると船内にアナウンスが流れます。
そうなると、食事中だろうと休憩中だろうと、みんな慌てて外に飛び出して、双眼鏡やカメラを構えてホッキョクグマを探しはじめるのです。時には、急きょゾディアックボート(エンジン付きのゴムボート)に乗り換えて、ホッキョクグマに急接近することもありました。
1頭でも見られたらラッキー!なのに、私が乗船したときには初日から出会うという幸先の良いスタートで、クルーズ中には合計8頭ものホッキョクグマに出会えました。
中でも、子グマ2頭を連れた母グマとの出会いにはとても興奮しました。ホッキョクグマは、陸上に雪洞を堀り、そこで3月から4月にかけて出産し、母親が2~3年に渡って子育てをします。私が訪れたのは6月。まさに生まれたばかりの子グマたちでした。
最初は母親の上に乗ってじゃれ合っていた子グマたちに、やがて授乳を始めた時は、みんなで息をひそめて見守りました。
長年ホッキョクグマの研究をしているスタッフも授乳シーンを見たのは初めてと言うぐらい、とても貴重な瞬間でした。「中に人間が入っているの?」と思うほど、人間にそっくりの光景に思わず笑みがこぼれます。我が子を慈しむ愛情に溢れる姿に出会えて感激の瞬間でした。
極北の過酷な環境の中でも、小さな命がたしかに成長していることに、生命の尊さと力強さを感じたものです。
絶景のスピッツベルゲン島ハイキング
スピッツベルゲンとは、“尖った山々”という意味です。その名の通り、急峻な山々が海から突き出ている様子は、クルーズ船の甲板から眺めているだけでも圧巻です。
実際にスピッツベルゲン島に上陸してハイキングをしてみると、少し標高を上げるだけで氷雪を抱いた鋭い山々ときらめく海が織りなす絶景が広がり、思わず歓声が上がりました。まさに、ここでしか見られない風景です。
見渡す限り絶景が広がり、何度も足を止めて見とれてしまうのでなかなか前に進みませんでした。時おり、トナカイやホッキョクキツネが姿を現し、私たちを楽しませてくれます。また、足元には紫色のユキノシタがびっしりと咲き誇っていて、短い夏の到来を待ちわびたかのようでした。
気分はまるで探検家!ゾディアッククルーズ
ハイキングや野生動物との出会いはもちろん、ゾディアックボートというエンジン付きゴムボートでのクルーズも大きな魅力です。海面から突き上げる大迫力の氷壁に接近できたり、ホッキョククマやシロイルカ、海鳥などの野生動物にそっと近づいたりできるのは、小回りが利くゾディアックボートならではの体験です。
静寂に包まれた中、冴えきった風を頬に受けながら氷山漂う大海原を航海すれば、気分は爽快、まるで氷の世界に溶け込んでいくような感覚です。また、何十万羽もの海鳥が騒がしく頭上を飛び交う様子は圧巻の一言で、まるで海鳥の楽園に迷い込んでしまったかのようでした。光景はもちろん、けたたましい鳴き声や鳥のにおいまでもが今でも強烈に印象に残っています。
海上に浮かんでいる衰弱したハシブトウミガラスをトウゾクカモメがついばむ場面や、ホッキョクキツネがハシブトウミガラスを狩る場面にもタイミングよく出会えました。真に野生の世界を目の当たりにし興奮すると同時に、厳しい環境で必死に生きる動物たちの姿に心打たれました。ゾディアックボートでの探検は、甲板の上にいるだけでは決して体験できない大冒険です。
スピッツベルゲン島は誰でも移住できる??
スピッツベルゲンという島はあまり聞き慣れない場所だったかもしれません。
「スヴァールバル条約」と言えばピンとくる人もいるのではないでしょうか。
スヴァールバル条約は、
- スヴァールバル諸島をノルウェーの領土と認める
- 批准した国の人は、誰でも自由に移住して経済活動を行う権利を有する
という内容で、日本は1920年に批准し、今では40カ国以上の国が批准しています。
スピッツベルゲン島は距離こそ日本から遠く離れていますが、実は意外なところで身近な存在なのです。
今回、雄大な大自然を前にして、「ここに移住したい!」とひそかに思ったのでした。